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(23)コンブ養殖
県水試は、兵庫県下でのコンブ養殖の可否を見きわめるため、1964(昭和39)年11月に、北海道立水試有珠分場からコンブ原藻を取り寄せた。この原藻からワカメと同様の手法で、遊走子付けをしてコンブ種苗の生産を試みた。コンブ種苗は順調に成育し、1965(昭和40)年1月20日には葉長5㎜となった。この種苗を同年1月19日に西淡町阿那賀の鉄枠養殖器に、20日に香住町柴山の傘型コンクリートブロックに装着して設置した。また、高砂・明石・神戸市塩屋では縄養殖の技法を用いて、兵庫県下におけるコンブ養殖の可否を見きわめようとした(拓水101号)。
県水試が予備試験のつもりで始めたコンブ養殖試験は、1965(昭和40)年の夏を迎えて予想以上の好成績(葉長2.5m、幅27cm、厚みもあり、色つやも濃いこげ茶色)を示し、各界から大きな関心が寄せられた。そこで、県水試職員がコンブの情報を収集するため、道南を訪れた。養殖コンブに関する限り、明石コンブに勝るものは無く、天然の1年コンブと比べても見劣りするものではないことが確かめられた。また、事前に送られた乾燥見本を見た諸氏からも、高い評価を得た。兵庫県において、コンブ養殖を企業化するためには、①早期採苗で沖出しを40日早め、入梅前に2.5~3mにする、②養成施設と管理方法を工夫して梅雨明けまでもたせる、③北海道で試作された乾燥機を導入する、の3点が必要であると、県水試の担当者は指摘している。なお、関西のコンブ取引・加工業界は、試験製品を見て大きな期待を抱いているため、販路に困ることはないともつけ加えている(拓水107号)。
1966(昭和41)年6月発行の拓水117号では、県水試の担当者が、養殖試験2年目の1966(昭和41)年5月中旬現在、早い所ではコンブは2mに成長しており、暖海域におけるコンブ養殖の可能性がますます高まったと報告している。また、明石海峡近隣の生産者に対して、コンブの長さは間もなく最大型に達するが、厚みが出るまでにはまだ30~40日を要するため、刈り入れは梅雨明けまで待つよう、呼びかけた。見込み薄となった日本海・淡路島南西部の試験地の漁業者に対しては、同年8月までは養殖を続け、結果を確認するよう求めた。
明石海峡一帯のコンブ養殖試験地では、1966(昭和41)年7月下旬から収穫が開始された。7月21日には、県水試に関西のコンブ加工業者が多数視察に訪れる中、担当職員が県水試地先の養殖縄15mから約250㎏を収穫した。各地の試験地でも収穫後に乾燥製品を製造しており、2次加工の試作品もできる見込みとなった。但馬・淡路では、前年同様、成長度がやや落ちる見込みであった。ワカメ養殖の規模が、年々5割増という勢いで伸びた中で、過剰生産による価格の暴落が心配されていた。県水試担当者は、ワカメの一部をコンブに切り換えることで、暴落を防ぎたい、と述べている(拓水119号)。
1967(昭和42)年2月発行の拓水125号には、同年1月12日に開催された漁村青壮年活動実績発表兵庫県大会における、江井ヶ島漁協の「コンブ養殖」の報告概要が掲載された。江井ヶ島では、これまでノリ・ワカメの養殖を行ってきたが、ノリは漁場の確保と病害のため企業化に至らず、ワカメは生産過剰による価格の低下という問題があった。そこに、県水試からコンブ養殖試験への参加依頼があった。コンブは全国的に原料が不足(約3万t)していることもわかり、漁協は養殖試験に取り組むことにした。種糸は県水試から提供されたものを使用し、養殖施設はワカメと同様のものを用いた。試験は1966(昭和41)年8月に終了し、幹糸1m当り干しコンブ2㎏が生産できた。加工業者から味は申し分ないが、長さと厚みが本場より劣ると評価された。
1967(昭和42)年3月発行の拓水126号に、短波放送の番組に出演した県水試の担当者による「瀬戸内海でコンブを養殖する」と題した話題の概要が掲載された。コンブ養殖に取り組んだ動機、2年間にわたる養殖試験の内容と結果、今後の課題である促成培養技術の確立などが語られた。
1967(昭和42)年6月発行の拓水129号では、コンブ養殖3年目の収穫期を迎える「明石コンブ」について、県水試の担当者がそれまでの経過と、3年目に実現した配偶体の抑制管理による早期沖出しの結果を報告した。配偶体の抑制管理で、11月に採苗した配偶体を翌年10月末まで眠らせ、12月に沖出しすることで、通常よりも3ヵ月早く養殖をスタートさせることが可能となった。県水試が1966(昭和41)年10月に抑制を解除して、同年12月に沖出ししたコンブ種苗は、翌年5月22日時点で、通常種苗が6月中旬に達する最大型をはるかに超え、厚みも7月下旬並みとなるなど、大きな成果を得た。ワカメの作付制限よりも、コンブへの作付転換を図るために、兵庫県におけるコンブ養殖技術の向上に努めたい、と県水試は結んでいる。
2023(令和5)年5月時点では、明石市内で3名、香美町内で2名の生産者が、コンブ養殖を行っている。コンブ種苗は、(公財)青森県栽培漁業振興協会が生産・有償配布したものを、JF兵庫漁連が斡旋・販売している(制作委員会注)。