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(44)WTO新ラウンド
2001(平成13)年11月、カタールのドーハで開かれたWTO(世界貿易機関)の閣僚会議で閣僚宣言が採択され、WTO新ラウンド交渉の開始が決まった。ところが、WTO新ラウンドの水産物(魚及び魚製品)を含む非農産市場アクセス交渉(条件交渉)において、2003(平成15)年5月にジラール議長が示したモダリティ(交渉の大枠)要素案では、水産物は関税撤廃の対象と位置づけられ、さらに関税を一律に引き下げる方式が採用された。このため、JF兵庫漁連・JF兵庫信漁連・JFぎょさい兵庫の3団体は、同年6月の合同通常総会において、「WTO水産物市場アクセス交渉に関する決議」を採択し、県議会に請願した。この決議書は、同年6月30日の県議会本会議で採択され、意見書が内閣総理大臣をはじめ関係大臣等に提出された。意見書に示された要望事項は、①水産物(魚及び魚製品)の関税撤廃に断固反対し、関税撤廃の分野から除外すること、②WTO非農産市場アクセス交渉(水産物)のモダリティが、漁業資源の持続的利用と各国の漁業・漁村の存続を脅かすことのないようにすること、の2点であった(拓水562号)。
2003(平成15)年7月「WTO危機突破全国漁民緊急集会」が東京都内で開催され、全国から約1,000名の漁業者が参加した。この緊急集会は、水産物を関税撤廃の対象とすることなどを示した、ジラール議長のモダリティ要素案に反対するもので、WTO非農産市場アクセス交渉では日本提案の実現を図るよう訴えた。兵庫県からは20数名が参加し、集会後にはデモ行進が行われた(拓水562号)
2003(平成15)年9月発行の拓水563号に、同年8月に東京の日比谷公会堂で開催された「WTO日本提案実現全国漁民大会」の模様が紹介された。大会には、全国から約2,000名の漁業者らが参加し、来賓として自民党水産総合調査会長、同党農林水産貿易調査会長をはじめ多数の国会議員が参加した。兵庫県からは52名が参加し、水産物の関税撤廃断固阻止を訴えた。大会では「①水産物の関税撤廃を断固拒否する、②補助金の一律削減・撤廃を阻止する、③漁業・漁村社会の存続を脅かさないようなルールの実現を求める」とする決議が、満場一致で採択された。大会終了後には、政府への要請行動や世論喚起を求めるデモ行進が行われた。
2003(平成15)年9月、メキシコのカンクンで開催されたWTOの新ラウンドは、共同宣言の採択に至らず、機能不全に陥った。グローバル化・自由貿易促進を目指すとしながら、先進国が自国の農業を保護することで、途上国の農産物が締め出されることが明らかとなり、途上国の不満が表面化した。
新ラウンドの決裂を受けて、2国間や特定地域間で貿易協定の内容を柔軟に決めることができるFTA(自由貿易協定)を推進する動きが活発化した。一方日本のFTAは、農産品問題がないシンガポールとの締結に留まり、メキシコ・韓国との交渉が進められていたが、締結は容易ではなかった(拓水565号)。
2003(平成15)年9月にWTO新ラウンドは決裂したが、同年12月までに一般理事会を開催し、今後の進め方が議論されることになった。カンクン閣僚会議での最終案(ジラール議長案は参考扱いとなり、水産物の関税撤廃は先送りされた)をもとに、議論が進められる可能性があった。
日本のFTA交渉について、政府は同年11月に農林水産物貿易調査会を開催して、状況を説明した。メキシコとの交渉では、2003(平成15)年内の成立をめざしたが、豚肉やオレンジ果汁などに関して隔たりを埋めることができず、翌年3月まで伸ばす判断に傾いた。韓国とは2005(平成17)年の実質合意をめざす方針で一致し、ASEAN(東南アジア諸国連合)(※1)とは2005年の交渉入りで一致していた(拓水566号)。
2003(平成15)年12月、WTOの一般理事会がスイスのジュネーブで開催され、同年9月に決裂した新ラウンドを、2004(平成16)年2月に再開することを決めた。一方、2003年10月から非公式に進めてきた、農業や投資保護などの重点4分野の合意形成ができず、先進国と途上国の溝は埋まってはいなかった。
FTAについて日本政府は、ASEANのタイ・フィリピン・マレーシアとの政府間交渉を2004年1月に開始することで合意した。2003年12月には、韓国との政府間交渉が行われる予定であった。
こうした中、JFグループでは2003年12月に東京で、全国JF漁連・JF信漁連・JF指導漁連会長、漁済組合長による4連会長組合長会議を開催し、あわせて「WTO・FTA対策特別本部」の全体会議を開催した。会議では、水産庁から交渉の状況について説明を受け、対策本部をFTA対策に重点を置いて強化することを決定した。
前述の4連会長組合長会議では、「WTOおよびFTA交渉に関する要望」も決議した。会議後、代表団は農水省、経産省及び自民党へ要請活動を行い、JF兵庫漁連も地元選出国会議員に同様の要請を行った。要望事項は、①WTO交渉においては、日本提案の実現をめざし、水産物の関税撤廃に断固反対すること、②漁業、漁村の維持発展のため、漁業補助金の一律削減・廃止を阻止すること、③漁業資源の持続的利用を確保し、各国の漁業・漁村の存続を脅かさないようなルールの確立をはかること、④FTA交渉においては、水産物がセンシティブな(慎重に扱うべき)品目であることを配慮し国内漁業が実害を被ることがないようにすること、の4項目であった(拓水567号)。
2004(平成16)年2月発行の拓水568号に、2003(平成15)年の1年間におけるWTO・FTA貿易交渉の動向が紹介された。①これまでの議論の概観、②主要分野での議論、③一般理事会の概要、④今後の見通し、の4項目に分けて経緯が記載されている。
2004(平成16)年2月、牛丼チェーンの店舗から名物の牛丼が消えたというニュースが報じられた。米国産牛肉のBSE問題や鶏肉の鳥インフルエンザ問題が発生し、外食各社が販売戦略の見直しを余儀なくされるとの報道が、全国に広がった。カロリー換算による日本の食料自給率は40%であり、OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進30ヵ国の中で、28位と低位にあった。このような状況下で、FTA交渉を進め、農産物の輸入自由化が拡大すれば、食料自給率がさらに低下する。JF兵庫漁連の担当者は、FTAの進展は、日本の農水産業の根幹を脅かすものであり、食料安全保障に係る重要な問題である。国民が食料自給率に関心を寄せる今こそ、漁業者が結束して日本の漁業・漁村を守る世論喚起に、知恵と力を傾注しなければならない、と述べた(拓水569号)。
2004(平成16)年4月発行の拓水570号で、同年2月に中国紙経済参考報(電子版)に「中国・江蘇省海苔協会が、日本は輸入割当制により韓国のりには市場を開放しながら、中国産は輸入しない差別的な措置を取っているとして、同国商務省に貿易障壁をめぐる調査を依頼した」という記事が掲載された。これに対して、水産庁は「対日輸出の実績があるのが韓国だけであったため、輸入枠の全量を韓国に割り当ててきた」と応じた。続いて「中国が世界貿易機関(WTO)に加盟したため、結果として差別的な対応になった」と説明した。さらに水産庁は、水産物の中で、WTOで認められた輸入割当対象品目は、のり・イワシ・サバなど17品目で、特定の国を差別的に扱っている例は、のり以外にはないと述べた。当面は「中国政府の対応を見極めたい」とした。
拓水570号には2004(平成16)年3月に、日本とメキシコがFTA締結で正式合意したことが紹介された。日本のFTA締結は、シンガポールに次いで2国目であるが、農産品を含むものは今回が初めてとなった。
2004(平成16)年6月発行の拓水572号に、中断されていた非農産物品市場アクセス交渉が、同年3月に再開されたとの記事が掲載された。当初、交渉は膠着状態にあったが、同年5月にEUが輸出補助金の削減を表明し、交渉は7月末までの枠組み合意に向けて急転直下の進展を見せた。日本は、東アジアとのFTA交渉に傾注していたため、今後不利な交渉となることが予想された。FTA交渉については、2004年3月にメキシコとの大筋合意の後、韓国・タイ・フィリピン・マレーシアとの政府間交渉が始まっていた。
WTO交渉は、2004(平成16)年7月末に一般理事会が開催されることから、大筋合意に向けた動きが活発になっていた。新聞報道は、新ラウンドの焦点である農業交渉において、自由化の原則が固まったと伝えた。農産物の関税は、税率の水準によって区分し、高関税の品目ほど下げ幅を大きくする「階層方式」が採用される見込みであった。さらに、高すぎる関税(数100%)を廃止するため、上限税率の導入も合意されていた。農業交渉の進展で、水産物の関税等を扱う非農産品市場アクセス交渉も進展する見込みとなった(拓水573号)。
2004(平成16)年7月発行の拓水573号に、中国がのりに関する貿易障壁を調査するために、日本に「調査団」を派遣した記事が掲載された。中国は2001(平成13)年にWTOに加盟し、翌2002年から貿易対象国の貿易障壁の有無を調査してきた。中国の「調査団」と水産庁や経済産業省の貿易担当者が意見交換を行った。日本側は「価格の低迷など国内生産者の現状を考えると、積極的に輸入を促進する状況ではない」と、従来からの基本方針を伝えた。中国側からは「中国のスサビノリの生産量は年間20億枚で、その10%を中国国内で消費し輸出も増えている」と説明した。さらに日本の貿易制度、IQ(輸入割当)制度などについて、詳しい説明を求めた。
2004(平成16)年7月、自民党本部において「WTO・FTA対策緊急全国漁業代表者集会」が開催され、全国から約300人の漁業関係者が参加し、本県からも12名が参加した。集会では、WTO・FTAでの水産物関税撤廃・関税の一律削減を断固反対することなどを、政府・自民党に強く訴えた。大会決議として、①WTO非農産品市場アクセス交渉において水産物関税撤廃、関税の一律削減を断固拒否する、②漁業・漁村の維持発展のため、漁業補助金の一律削減を阻止する、③WTO・FTA交渉においては水産資源の持続的利用および漁業・漁村の維持・存続のため十分な配慮を確保する、④IQ制度を堅持する、⑤漁業・漁村活性化に向けた大型政策を確立する、の5項目を採択した(拓水574号)。
2004(平成16)年7月、スイスのジュネーブで開催されたWTOの一般理事会で、今後の水産物関税等削減を決定する枠組みが合意された。しかし、課題が先送りされたままの大枠合意で、今後の交渉では日本のIQ制度などが焦点となることが予想された。また、同年9月末からは、ジュネーブでルール交渉が始まることが予定された(拓水575号)。
2004(平成16)年9月、自民党本部において、自民党水産政策推進議員協議会(水産物貿易問題専門会議)が開催された。協議会では、全国水産物輸入対策協議会のメンバーが、IQ制度堅持の重要性について要望を述べ、議員との意見交換を行った。
「のり」のIQ制度は、水産物全体の交渉の第一関門であり、韓国と中国との交渉も迫っていたことから、同年9月に「のり」に特化した協議会が再度開催された。協議会に先立ち、のり関係漁連会長会が開催され、「のりIQ制度の存続を求める要望書」の内容が決議された。要望の骨子は、①乾のりおよび味付けのりのIQ制度を堅持すること、②IQ枠の数量は、国内ののりの需給状況を勘案し、現状以上の増枠を認めないこと、③海外からののりの輸入に対し、生産者および消費者のためにより強固なのり産業に対する支援を行うこと、④のりの原産地表示を加工品まで義務化するとともに、監視体制の強化充実を図ること、の4点であった。協議会では、これらの要望事項の実現を強く求め、参加した議員からも活発な意見が示された。協議会の結論として、IQ制度堅持の重要性が確認され、同協議会で最大限の努力を続けていくことが決まった(拓水576号)。
2004(平成16)年11月発行の拓水577号は、農林水産省がこれまで韓国だけに認めてきたのり輸入割当枠(IQ枠)を、次年度からグローバル化し他国の参入を認める方針を明らかにしたことを伝えた。同年4月に中国側が「日本ののりIQ制度がWTOに違反している」として、同年10月を期限とする調査開始を発表し、両国間で折衝が続けられた。その結果、概ね次のとおり合意形成が図られた。すなわち、①IQ枠をグローバル化し中国からの輸入もこの枠の中で行えるよう措置する、②現行のIQ制度の枠組みを維持する、③窓口は、日本側は「のり協会」、中国側は「江蘇省のり協会」とする、④輸入割当の技術的運用については、来年1月中にまとめることをめざして、まず日本側から11月に訪中する、の4項目であった。これによって、中国側は2004年4月から行ってきた調査の中止を発表し、WTOへの提訴は避けられた。しかし、同年11月の韓国との交渉の状況によっては、引き続き予断を許さない状況にあった。
2004(平成16)年12月発行の拓水578号に、次年度から日本に輸入されることが確定的となった中国産のりの生産状況把握と将来予測を行うため、JF兵庫漁連の実務者9名が、中国連雲港市および南通市ののり漁場ならびに加工場等を視察した様子が紹介された。視察の結果、広大な漁場、安価な人件費などから、今後日本にとって大きな脅威となることが想定された。参加者は、日本の生産者の生き残り策として、①特徴のあるのりを作ること、②生産コストを下げること、③共販体制を見直すこと、の3点を指摘した。
2004年(平成16)年12月、韓国は日本ののりのIQ制度が、WTO協定に違反しているとして提訴した。こうした動きを受けて、JF兵庫漁連は同年11月、兵庫県議会議長に対して、①IQ枠を堅持すること、②IQ枠の増枠を認めないこと、③国内のより強固なのり生産業構築のため、さらなる支援を実施すること、④加工品の原産地表示の義務化と監視体制の強化充実を図ること、の4項目について、意見書として国に提出するよう要望した(拓水578号)。
(※1)拓水566号には「アジア太平洋経済協力機構(ASEAN)」との記述があるが、正しくは「東南アジア諸国連合(ASEAN)」である。
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