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(5)水産業改良普及員(普及事業の創成期)
1968(昭和43)年5月発行の拓水141号に、兵庫県の水産業改良普及事業のあゆみが掲載されている。これによると、本県におけるこの事業のスタートは、1952(昭和27)年と全国的にみても早く、県の事業として水産業経営指導員を市町村に設置したのは、北海道に次いで2番目であった。1959(昭和34)年には、国が沿岸漁業の振興策としてこの事業の重要性を認め、国による改良普及事業を開始した。本県も1968(昭和43)年時点で、国の改良普及事業によって、4名の専門技術員を水産試験場に、また14名の水産業改良普及員を県水産課及び豊岡、洲本の農林事務所水産課に配置している。水産業改良普及員の役割については、「漁村の実情を知り、漁業者の良い相談相手となって、漁民がものを考え問題点を解決していく力を持ち、向上しようとする激しい意欲と意識を会得するための呼び水的存在になること」と記されている。
拓水から水産業改良普及員に関する記事をみていくと、1957(昭和32)年1月に水産試験場において、水産業改良普及嘱託員の新年初会合が開かれ、嘱託員約40名が集まり、前年事業の反省(青年大会)、本年事業の展望(普及目標の確立)、水産業改良普及海区の設置、利子補給制度の活用、漁船保険、漁村実態調査と水産物流通調査などについて、意見交換が行われたという記事が最初である(拓水6号)。
1960(昭和35)年7月には、旧県漁連内に漁村生活改良普及嘱託員5名(女性)が配置された。配属された事務所は、県の水産指導室(水産試験場、淡路、但馬)とある。配置直後の7月4~8日の5日間、水産試験場で開催された水産業改良普及嘱託員の研修会に、上記の5名も参加した。生活改善の目的としては、家族の健康保持、消費生活の合理化、後継者の育成、老若男女平等の家庭づくりが示されている。特に消費生活の合理化については、貯蓄運動・副収入を得ること(内職等)・漁協の仕切を毎日から10日または1ヵ月ごとに切り換えること、華美な祝い事・祝儀を見直すことなどが求められる、とある(拓水47号)。
1960(昭和35)年9月発行の拓水49号には、淡路地区で生活改良普及員が配属後2ヵ月間の感想を寄稿しているが、初めて触れる漁村の生活に戸惑いながら、アンケートを通じて漁家の生活の実態を明らかにするとともに、漁協婦人部活動へのアプローチなどを模索する様子が描かれている。摂津・播磨地区の漁村生活改良普及嘱託員が水産試験場内の水産指導室に配属されたことから、これまで水産試験場とあまり縁のなかった漁協婦人部との間に接点ができたという。漁協婦人部に対しては、県水試が実施した漁家の生活実態調査の結果を示し、漁家の女性は家庭と漁業の双方に関わるなか、生活は多忙で疲れすぎているととらえ、生活改善の必要性を示している。
一方で、1963(昭和38)年12月発行の拓水88号には、兵庫県が普及事業に取り組んだ13年間を振り返る記事がある。開始当初は漁業生産面での研究クラブ(後の4Hクラブ・漁協青壮年部)の活動は目覚ましく、水産加工や水産経営の面までおよび、毎年開催された研究発表大会では見事な研究結果が報告され、普及事業の成果は見るべきものがあった、とある。しかし、沿岸漁業の規制は厳しく、能率漁業は乱獲や違反漁業に通じ、それ以上の技術改良が困難になった。今後も普及可能な事業は、浅海増養殖関係の技術開発であるが、これには漁場適地がなければならない。その他、流通問題や漁業経営など取り組むべき課題は多いが、問題が大きすぎて一地区だけで解決することはほとんど不可能である、とも記している。さらに、兵庫県の普及事業がこのまま推移すれば「普及事業無用論」が出る、との危機感を表している。最後に、普及事業の重要さは以上のような厚い壁にぶつかったときにわかる、と結んでいる。
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