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(31)豊かな海再生

1977(昭和52)年8月、第7回瀬戸内海環境保全知事・市長会議および瀬戸内海環境保全推進大会が、(社)瀬戸内海環境保全協会の主催によって、神戸~高松を結ぶ旅客船の船上で開催された。同会議には、当時の環境庁長官、瀬戸内海環境保全審議会長をはじめ、農林・通産・建設等関係省庁官僚、1府10県の各知事および3市の市長、瀬戸内海環境保全協会加入の漁連・荷受・公園協会関係者ら250名が出席した。

知事・市長会議では、環境庁から瀬戸内海の水質の現況報告が行われた。それによると、瀬戸内海環境保全臨時措置法の期限が1976(昭和51)年に2ヵ年延長され、この間、産業排水の規制強化によってCOD汚染負荷量の削減は計画の130%と成果をあげた。しかし都市生活排水や総量規制等多くの課題が未解決で、1967(昭和42)年に164件発生した赤潮が1976(昭和51)年には326件に達していた。これらの報告を受けた後、瀬戸内海の環境保全対策について、次の5項目について協議が行われ、国に対する要望事項として取りまとめられた。すなわち、①排水規制の強化と赤潮対策の確立、②下水道整備の促進、③埋立てに係る環境評価の確立、④船舶航行の安全対策、⑤瀬戸内海環境保全基本計画に係る財政上の特例措置、等であった。

続いて、瀬戸内海環境保全推進大会が開催され、各界代表者から現状と今後の対応について要望が示され、政府に対する大会要望決議が採択された(拓水252号)。

1977(昭和52)年9~10月、兵庫県の系統8団体総括団体である「漁政懇話会」が中心となり、政府、国会への陳情、県、県議会への陳情が行われた。政府への陳情では環境庁、建設省、水産庁、海上保安庁を訪問し、瀬戸内法の制定と赤潮問題の実情を訴えた。立法の中心になる環境庁では、前述した8月の船上会議の意向を受けて次期国会で政府提案を行うため、各省庁との意見調整が進められていた(拓水253号)。

瀬戸内海環境保全臨時措置法は、1973(昭和48)年11月に施行され途中2ヵ年延長されたが、1978(昭和53)年11月に期限切れを迎える。後継法は、政府提案とするため、環境庁において総量規制の導入と富栄養化対策を柱とする改正法案を作成し、各省庁等との折衝が行われた。漁業者にとって、法案の内容は必ずしも満足いくものではなかったが、産業界等に強い反対があることを踏まえ、全国漁協系統では当法案を支持することを決めた(拓水258号)。

政府は、1978(昭和53)年4月の閣議で「瀬戸内海環境保全特別措置法案」と汚濁物質の総量規制を導入するための「水質汚濁防止法案」を決定し、ただちに衆議院に提出した。環境庁では、総量規制の導入と富栄養化対策、自然海浜の保全、埋立規制、船舶油流出防止等を骨子とした「瀬戸内海環境保全臨時措置法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法案」を作成し、同年3月中旬の国会提出を目標に調整が図られた。しかし、瀬戸内海関係経済連、日本商工会議所等産業界からの強い抵抗を受け、調整は難航した。そこで、全漁連をはじめ瀬戸内海関係漁連は、環境庁案を支持し同年2~3月に相次いで上京して、陳情活動を展開した。その結果、原案は若干修正されたものの、漁連側にとってほぼ満足できる法案となった(拓水260号)。

1978(昭和53)年5月発行の拓水260号に、「瀬戸内後継法におもう」と題した記事が掲載された。これによると、1973(昭和48)年3月に明石市民会館で開催された、「公害絶滅瀬戸内漁民総決起大会」が直接の原動力となり、同年11月に「瀬戸内海環境保全臨時措置法」が議員立法で施行された。この法律が瀬戸内の浄化・保全に大きく寄与したと評価した。一方、1978(昭和53)年4月に国会に提出された後継法案については、排水の総量規制が導入されたことは一歩前進であるが、赤潮発生防止(富栄養化対策)、油汚染対策、自然海浜の保全は、いずれも関係府県の行政指導に任せる形となったことで、漁協系統が求めた内容から大きく後退した、と断じた。現段階では、恒久法の誕生を成果ととらえ、法の運用や改正に際しては、後退することがないよう結束と不断の努力が必要である、と結んでいる。

1978(昭和53)年5月11日、衆議院公害対策および環境保全特別委員会で全会一致、衆議院本会議で可決した「瀬戸内海環境保全臨時措置法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律案」は、同年6月7日の参議院本会議で可決、成立した(拓水262号)。

2004(平成16)年10月、瀬戸内海に面する11府県の漁連が連絡会議を結成し、瀬戸内海を水産資源等の豊かな海として再生するために、瀬戸内海の環境を修復するための特別措置法等の新たな法律の制定に向け、国会・行政各省庁に要望活動を実施した(拓水578号)。

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2005(平成17)年8月、神戸市において瀬戸内海関係漁連連絡会議が開催され、瀬戸内海を豊かな海にするための新法制定に向け、新法に盛り込むべき事項の取りまとめが行われた。会議の後、瀬戸内海環境保全知事・市長会議議長を務める兵庫県知事に対して要請活動を実施した。要望事項は、①森・川・海を1つのユニットとして法整備を図ること、②有明法を例として、環境の保全と改善、水産資源の回復等による漁業振興を法律に位置づけることや、国が環境構造の解明と改善、藻場・干潟の保全と再生など根本的な方策を講じること、③漂流・漂着・海底堆積ゴミの処理に関してルール化を図ること、④漁業被害の発生防止・救済措置を講じること、⑤開発規制強化や構造物の自然回帰方策を講じること、⑥森・川行政に海域漁業者の意見が反映される仕組みづくりを行うこと、であった(拓水587号)。

2005(平成17)年9月、瀬戸内海環境保全知事・市長会議が主催した「瀬戸内海再生フォーラム」に、兵庫県漁連会長が参加し、瀬戸内海をかつての豊穣の海に再生するための新法制定に向け、応援スピーチを行った。当日は、全国から400名が参加し、「瀬戸内海再生に向けた新たな取り組み」について記念講演の後、県漁連会長ほか2名による、新法制定に向けた応援スピーチが行われた(拓水588号)。

2005(平成17)年9月、社団法人瀬戸内海環境保全協会から「瀬戸内海の環境の保全と再生に関する特別要望」が、経済産業省、環境省、内閣府、国土交通省、農林水産省他関係省庁に示された。瀬戸内海の生物多様性を確保し、水産資源の回復等豊かな海として再生を図るとともに、美しい自然とふれあう機会の提供等のための法整備を求めた(拓水588号)。

2005(平成17)年11月、明石市から高砂市までの13JFで構成する、東播磨漁業協議会が事業主体となって、東播磨県民局の指導のもと、ウチムラサキ貝の試験放流を実施した。かつて播磨灘東部海域には、ウチムラサキ貝が海底を埋め尽くすほど大量に生息し、ピーク時には年間約800tが水揚されていた。ところが、1990年代に入ると漁場環境の悪化によって漁獲量は激減し、2005年の水揚はほぼ0となった。ウチムラサキ貝をはじめとする貝類等の底生生物は、プランクトン等を捕食し水質浄化にも重要な役割を果たしている。ウチムラサキ貝の再生は、近年のノリの色落ち現象の原因と考えられる大量のプランクトンの発生を抑制し、海水中の栄養塩消費に歯止めをかけることにつながると期待が寄せられた(拓水590号)。

2008(平成20)年5月、兵庫県公館において、瀬戸内海を豊かで美しい里海として再生をめざす「瀬戸内海里海シンポジウム」が開催され関係者約300名が参加した。植樹活動などの事例紹介と合わせ、身近な環境保全活動を積み重ねる、陸と海との生態的なつながりを回復させることの大切さが強調された。今後、「瀬戸内海再生法(仮称)」の制定に向けた動きが、急ピッチで進むと見込まれた(拓水620号)。

2008(平成20)年11月発行の拓水625号に、瀬戸内海環境再生法(仮称)制定に向けた、運動の経過と全体像が紹介された。日本経済が急成長を始めた1965(昭和40)年頃から、瀬戸内海の沿岸域の環境は「死の海」と表現されるほど荒廃し、水産資源は壊滅の危機にさらされた。その後、世論の盛りあがりを背景に、瀬戸内海環境保全特別措置法が制定され、水質規制が強化されたことで、透明度が高い「見た目きれいな海」が実現した。しかし、国民・地域住民が求める豊かな生活環境とは、自然豊かな森・川・海に接する環境が確保されることで、「水清くして魚棲まず」は国民にとって、また水産生物にとっても快適な生活環境ではない、と述べられている。そこで、瀬戸内海に生きる漁業者は、かつての生物生産性、多様性に優れた瀬戸内海を「豊かな海」と表現し、次代につなげる豊かな瀬戸内海を実現するため、瀬戸内海環境再生法(仮称)の制定を目指す、とした。

2004(平成16)年からは、瀬戸内海環境保全知事・市長会議が同法制定に向けて運動を展開、漁業者側も瀬戸内海関係漁連連絡会議を組織し、知事・市長会議と連携して政府・国会への要請活動を展開した。その結果、議員立法による新法制定の準備が進められた。

2009年(平成21)年3月、県はダムからの河川水の放流が海の栄養塩減少を補う効果について検証するため、国土交通省、農林水産省、水利権者等の協力を得て、加古川水系の平荘ダムと糀屋ダムから5日間にわたって合計140万㎥の河川水の放流試験を実施した。放流後は、県水技センターとJF兵庫漁連が連携し、加古川河口域から播磨灘東部一帯の栄養塩の拡散状況、ノリの色落ちの改善状況について、調査を実施した(拓水630号)。

2009(平成21)年6月発行の拓水632号に、「兵庫県豊かな海創生支援協議会」の設立が紹介された。この協議会は、国が2009年度から始めた「環境・生態系保全活動支援事業」の県域の窓口として設立された。この事業は、藻場・干潟等の機能の維持・回復に向け、活動を行う組織を支援するものであった。

2010(平成22)年1月、東浦水交会が「大阪湾の海況に関する勉強会」を淡路市内で開催した。会員漁協の組合員ら約180名が参加した。この勉強会は、大阪湾海域の不漁の原因と、これからの取組について考えることを目的としていた。講演を行った講師から、豊かな海づくりのための取組として、①干潟の造成、②ウチムラサキ貝放流等による二枚貝の増殖、③やせた海へ栄養塩を送るため、ダム・ため池からの放水、④生活排水の中で、海に使用できるものを抽出するための下水処理・放水方法の変更、⑤海流全体の流れの抑制、などが示された(拓水640号)。

2010(平成22)年10月、兵庫県豊かな海創生支援協議会の臨時総会が開催され、「かいぼり」を特任活動の範囲に含めるため、地域活動方針の一部変更を決議した。この協議会は、前述のとおり藻場や干潟の修復再生などを行う漁業者や地域の人々の活動を、国と地方自治体が交付金で支援していくための県域窓口として、2009(平成21)年4月に設立された。これまで活動主体となる漁協等市町域組織から申請された活動のうち、海底耕耘や環境モニタリングなど約10件が承認された。海に栄養塩類を供給する「かいぼり」活動は、国の活動メニューとは一致しない点があったが、兵庫の海域事情を勘案して、これを特任活動に位置づけたのである。

2011(平成23)年7月、瀬戸内海関係漁連連絡会議が神戸市内で開催された。2004(平成19)年10月、140万人の署名(兵庫県内110万人のうちコープこうべから42万人の署名を得た(制作委員会注))を添えて特別要望を提出以降、停滞状態となってしまった「瀬戸内海再生法(仮称)」の実現に向けた取り組みの経過報告の後、意見交換が行われた。瀬戸内海の生産力が一様に低下していることが再認識されたことを踏まえ、今後も継続して瀬戸内海の環境改善に取り組むことが確認された。また、今後の具体的取組方策を検討するため、事務レベルのワーキングチームの設置が決まった(拓水658号)。

2011(平成23)年8月発行の拓水659号に、豊かな海創生支援協議会の通常総会ならびに活動事例報告会の様子が紹介された。活動事例では、多くの地域から海底耕耘に関する報告が行われた。その中に、良好な海底環境の目安となる「ナメクジウオ」の個体数の増加や、海砂の細粒化がみられたなどの報告もあった。一方で、海底耕耘が有効な手段と認められるには、裏付けとなるデータが必要である、との意見が示された。

2011(平成23)年9月、社団法人瀬戸内海環境保全協会主催の「瀬戸内海環境保全トレーニングプログラム」が御津町の新舞子浜で開催された。このプログラムは、瀬戸内海の環境保全に携わる行政や漁業団体の職員を対象に、環境保全活動の強化・充実に係る専門知識の習得を目的とするものであった。新舞子浜は、1923(大正12)年に、神戸市の須磨・舞子の海水浴場に負けないものを造ろうと、この舞子にちなんでその名が付けられた。参加者は現地研修で、干潟の環境の豊かさを実感した。貴重な干潟となった新舞子は、多くの地元住民の手によって守られてきた、と報告は結ばれている(拓水660号)。

2011(平成23)年11月、淡路市漁業振興協議会は淡路市長を訪ね、同市の下水道管理運転の実施や、海底耕耘・かいぼりなど海域への栄養塩供給の取組に対する理解と協力を求めた。同協議会は、海の貧栄養化がノリの色落ちなどに大きく影響していることから、市が管理する下水処理場において、排水基準内で窒素の排出量を増加させる管理運転の実施を求めた。市長は、「他地区でも同じ取り組みが行われていると聞いており、地元水産業のためにもできるだけ検討したい」、と述べた(拓水661号)。

2011年(平成23)年12月発行の拓水662号に、同年11月に神戸市内で開催された、NPO法人環境創生研究フォーラム主催の第3回里海創生シンポジウム「瀬戸内海の未来を考えるシンポジウム」の模様が紹介された。基調講演を務めた講師は「漁業者には海を汚さない、豊かな海を保全するという意識があるが、その数は日本の総人口の0.2%に過ぎない。残り99.8%の国民に、沿岸海域を大事な場と考える意識を持ってもらえるかが課題」と述べた。また、別の講師は、2006(平成18)年に里海の定義が固まって以来、この用語が中央省庁の計画で用いられたり、海外の学会でも取り上げられる機会が増えている、と報告した。最後に、今後も継続して里海づくり活動を行う必要があることを確認して閉会した。

環境省の中央審議会瀬戸内部会は、2011年(平成23)年7月に環境大臣から諮問された「瀬戸内海における今後の目指すべき将来像と環境保全・再生のあり方について」に関し、企画専門委員会を立ち上げ、関係機関から意見を求める機会を設けた。同年12月の企画専門委員会に、JF兵庫漁連会長が出席して次のとおり意見を述べた。「第5次総量規制から栄養塩とされる窒素・リンが規制対象となったことが、のりの色落ちをはじめ漁業資源に影響を及ぼしている。現在の総量規制の在り方を、削減一方から適正管理へ転換するよう求める」。企画専門委員会は、今後瀬戸内海の現場3ヵ所で現地ヒアリングを予定した(拓水664号)。

2012(平成24)年2月、環境省の中央審議会瀬戸内部会の企画専門委員会による現地ヒアリング(東部海域)が大阪市内で開催された。ヒアリングでは、8名の発表者が自らの活動・体験をもとに意見表明を行った。兵庫県からは県水技センター所長とJF明石浦組合長の2名が報告し、豊かな瀬戸内海を取り戻すために必要な施策等を訴えた(拓水665号)。

2012(平成24)年3月発行の拓水665号に、(社)瀬戸内海環境保全協会主催により神戸市内で開催された「瀬戸内海の水環境の今後のあり方について」の意見交換会の模様が報告された。環境省中央審議会瀬戸内部会の部会長は、基調講演で「瀬戸内海では大阪湾を除き、環境基準の達成率は100%に近いが、一方で漁業生産量は減少している。従来は水質浄化を目標としてきたが、水生生物のためには藻場・干潟や生息地の確保を含む水環境保全の方向に進むべきである」と述べた。また他の講師からは「大阪湾を除く瀬戸内海は貧栄養状態にあるから、下水処理場の新設は不要」「水質改善中心から生物多様性や生物生産性の向上に対応する必要がある」などの意見が示された。

2012年(平成24)年3月、自由民主党(以下、「自民党」と略記する)水産部会水産基本政策小委員会が開催され、JF兵庫漁連会長と京都大学教授が瀬戸内海の海洋環境状況を報告した。県漁連会長は「現行瀬戸法が制定されて30余年、海の栄養まで奪ってしまったのでは、との疑問がある」と述べたうえで、「瀬戸内海は国の宝だ。漁業者だけではなく沿岸域に暮らす何百万という人々や様々な産業に恵みを与えている。生命を育む「豊かな海」の再生を願い、瀬戸内海関係10漁連・漁協は一致して新法の成立を目指している」と訴えた。京都大学教授は「瀬戸内海の窒素・リンの濃度レベルは、すでに外海並みの低水準にあるという共通認識を持ったうえで論議する必要がある」と述べた。出席した議員からは、「瀬戸内海等閉鎖性水域及び沿岸域が豊かな海になるように、議員立法で政策的に支援していきたい」との意欲的な発言もあった(拓水666号)。

かつて瀬戸内海は宝の海だった
▲かつて瀬戸内海は宝の海だった

2012(平成24)年4月発行の拓水666号では、2011年9月に誕生したNPO法人「豊かな森川海を育てる会」が紹介された。同会の会長は、元兵庫県職員として水産行政や水産研究に携わってきた。豊かな海の再生への願いは漁業者と同じで、漁業者の参加を求めている、と同会を紹介した。

瀬戸内海関係漁連・漁協連絡会議は、「新瀬戸内再生法(仮称)」の制定を目指し、豊かな海の再生を訴えるパンフレットを作成した。パンフレットには、新瀬戸内再生法(仮称)に盛り込むべき要望事項がまとめられた(拓水668号)。

2012(平成24)年6月、自民党本部において「瀬戸内海再生議員連盟」の設立総会が開催された。自民党最高顧問は「命を育む豊かな海を再生していくために何ができるのか議論していきたい。そのために、瀬戸内海の漁連・漁協関係者の現場の声を、当議連が中心となって、予算で対応できること、立法が必要なこと等を議論し実行していく。海がやや不自然に透明度を増した結果、命を育むという観点がおろそかになった。これには、他の環境との関係、地域住民との関連という要素もあるので、政治的に判断して前へ進めていきたい」と述べた。最後に同議連事務局長が「定期的にこの議連を開き、現行瀬戸法を改正するのか、新法を制定するのか、水産庁・環境省等に意見を聞きながら進めたい」と述べ閉会した(拓水669号)。

2012(平成24)年9月、瀬戸内海関係漁連・漁協連絡会議が下関市で開催され、同年6月に自民党国会議員を中心に組織された瀬戸内海再生議員連盟と歩調を合わせ、新法成立に向けて取組を進めることが確認された(拓水672号)。

2012(平成24)年12月発行の拓水674号に、同年10月、環境省中央環境審議会瀬戸内海部会から環境大臣に「瀬戸内海の今後目指すべき将来像について」の答申書が提出された、との報告があった。また、同年11月の神戸新聞の社説で、瀬戸内海の環境再生の必要性がわかりやすく解説されていることも紹介された(拓水674号)。

2013(平成25)年4月、自民党の瀬戸内海再生議員連盟の第3回勉強会が党本部で開催され、議連側28名、瀬戸内海関係漁連・漁協関係者12名が参加した。勉強会では水産庁や瀬戸内海関係漁連・漁協関係者が、瀬戸内海の漁業の現状等について報告し、その後意見交換が行われた。最後に、議員連盟の今後の進め方として、有識者ならびに地元知事の意見を聞くための勉強会を開催した後、具体策の議論に入ることを確認して閉会した(拓水678号)。

2013(平成25)年6月、自民党の瀬戸内海再生議員連盟の第4回勉強会が自民党本部で開催され、11名の国会議員と議連参加秘書、環境省・水産庁、ならびに瀬戸内海関係漁連・漁協代表者ら約70名が参加した。会議では広島大学教授による「瀬戸内海の貧栄養化について」の講義を受けた後、意見交換が行われた(拓水681号)。

2013(平成25)年9月、(公財)瀬戸内海環境保全協会が瀬戸内海環境保全特別措置法の制定から40年となったことを記念して、高松市でシンポジウムと記念式典を開催した。シンポジウムでは、「里海」の実現に向けた意見交換が行われた。記念式典には、産官学から約1,000名が参加し、「瀬戸内海里海宣言」を採択して閉会した。また、同日、シンポジウム前に開催された瀬戸内海関係漁連連絡会議では、瀬戸内海再生に向けた具体的要望が決定した(拓水683号)。

2013(平成25)年11月、瀬戸内海再生議員連盟第5回勉強会が自民党本部で開催された。瀬戸内海関係漁連・漁協連絡会議では、これに先立ってワーキングチーム会議を開催し、第5回勉強会に向け、各府県の取組事項と要望内容を確認し、環境省・水産庁に対して中央要請を行うことを決めた。勉強会では、兵庫県知事、香川県知事からヒアリングが行われた。兵庫県知事は「瀬戸内海の再生に向けた課題と対策試案を説明するので、再生法のような形でまとめてもらい、再生が計画的に進められるような体制づくりを願っている」と述べた。香川県知事は「瀬戸内海環境保全知事・市長会議が提唱する法整備をはじめとした提案事項の実現が必須」と述べた。最後に、議連事務局長から、5名程度の議員でプロジェクトチームを作って、環境省・水産庁と折衝しながら望ましい改正の方向性を検討するとの提案があり、承認された。勉強会終了後、瀬戸内海関係漁連・漁協連絡会議の代表者らは、環境省水・大気環境局長、水産庁長官に対して中央要請を行い、瀬戸内海を再生するための法整備等を求めた(拓水686号)。

2013(平成25)年12月、自民党本部において瀬戸内海再生議員連盟のプロジェクトチームの初会合が開かれた。この日の出席者は議連の会長、事務局長、議員3名の計5名であった。これに環境省、参議院法制局、瀬戸内海知事・市長会議事務局などから関係職員が同席した。これまでの議連勉強会では、「法律の見直しは必要」との認識は一致していたものの、環境省が法改正に前向きでないことや、漁船漁業や養殖漁業の形態の違いから各県に温度差があることも感じられた。しかし、議連会長・事務局長らは瀬戸内海の再生を先送りできる状況にはないとの認識から、プロジェクトチームを立ち上げたのである。

初会合では、有明法を例に現行法の見直しに関する課題について、環境省の見解が問われた。これに対し、環境省の担当者は「窒素・リンと漁獲量の相関に科学的根拠を確認できていない」「濃度規制を海域ごとに目標設定するだけの知見はない」と述べた。ただし、「ノリに必要な栄養塩の対策については、総量規制の中でやれることを考える」とした。最後に「環境諸要因と生物多様性あるいは漁業生産との相関について、さらに検討が必要」との見解を示し、現行法での対応を前提に、新法制定や改正要否への言及を避けた。これに対して、プロジェクトチームからは、「瀬戸内海の法律は環境省、国交省、水産庁が共同で管理していかないと意味がない」との意見が示され閉会した(拓水688号)。

2014(平成26)年4月発行の拓水690号に、同年3月に発行された「知事エッセー」の「瀬戸内海の再生について」が転載された。知事は、瀬戸内海は大きな課題に直面している。それは「きれいな海」は実現したけれども「豊かな海」と「美しい海」が問題である、と指摘している。その原因は、①藻場・干潟の減少、②海底の環境悪化、③継続的な赤潮の発生、④海底ゴミや漂着ゴミなどの海洋ゴミの処理責任者が明確でないこと、である。このような事態に対処するための取組が、瀬戸内海を豊かで美しい里海として再生するための法整備を求める運動で、関係府県の知事・市長会議をはじめ漁業団体がこぞって新立法を求めている、と語った。

2014(平成26)年3月、環境省・中央環境審議会の水環境部会環境項目環境基準専門委員会の第2回会合が東京都内で開かれ、下層溶存酸素(下層DO)や透明度の環境基準の設定が検討された。関係者ヒアリングで、JF兵庫漁連会長は「豊かな海は、生物多様性に富み生産性が高い海であり、きれいな海が豊かな海とは言えない。透明度や下層DOだけではなく、栄養塩類など様々な要因を考えるべきだ」と主張した。さらに「安易な基準設定は、生物多様性や漁業活動に大きな影響を及ぼす」と、狭義の環境議論に疑問を投げかけた(拓水690号)。

2014(平成26)年5月、自民党の「瀬戸内海再生議員連盟」の総会が開催され、国会議員22名をはじめ、環境省・水産庁や関係漁連・漁協等の代表者らが出席した。この総会で瀬戸内海環境保全特別措置法の改正法案が承認され、今後国会に提出される見通しとなった。改正案では基本理念が新設され、瀬戸内海は国民にとって貴重な漁業資源の宝庫であることや、豊かな海は美しい景観とともに生物の多様性・生産性が確保され、多面的価値・機能が発揮された海(里海)であることなどが定義された。なお、窒素・リンの在り方に関しては、法案の早期成立を優先し、法施行後5年を目途に魚類資源との因果関係を調査研究し、その結果をもとに所要の措置を講じることになった(拓水692号)。

瀬戸内海環境保全特別措置法の改正案は、自民党の瀬戸内海再生議員連盟が2年をかけて2014(平成26)年5月に取りまとめ、同年6月に参議院事務総長に提出された。しかし、通常国会の会期末を1週間後に控え、政局に関わる他の法案審議等もあり、審議未了のまま継続審議となった(拓水693号)。

2015(平成27)年8月、参議院議員会館で自民、公明、民主、維新4党議員が出席する瀬戸内海再生議員連盟の総会が開催された。兵庫県からは県知事・県漁連会長らが出席し、瀬戸内海環境保全特別措置法の一部改正法案の早期成立を要請した。議連は、参議院では各党間の調整もほぼ終えており、8月中に可決成立を図りたい、と応えた(拓水706号)。

2015(平成27)年9月発行の拓水707号で、瀬戸内海環境保全特別措置法の一部改正案が、同年8月参議院本会議で可決成立したことが、報告された。瀬戸法の見直し運動は、10年を超える歳月を費やしたが、ようやく第一関門を通過した、とある。ところが、衆議院での審議日程が混乱し、委員会開催の見通しが立たない、と結んでいる。

2015(平成27)年9月、瀬戸内海環境保全特別措置法の一部を改正する法案が衆議院本会議で可決成立した。瀬戸内海の環境再生へ新法制定を訴えて約11年、豊かな海づくりに一歩を踏み出した。兵庫県では2003年から豊かな海を求める運動に取り組み、2005年には超党派による議員連盟構想実現に努めたが、2009年9月の政権交代でとん挫した。その後2012年6月に自民党の瀬戸内海再生議員連盟が設立され、2014年5月には法案の取りまとめが行われた。しかし、その後も成案目前の修正、突然の解散総選挙による廃案、安保関連法案による政局の混乱等に翻弄された(拓水708号)。

2016(平成28)年2月、瀬戸内海環境保全知事・市長会議の主催による「瀬戸法改正記念シンポジウム」が神戸市内で開催された。法改正に関わった国会議員や漁業関係者約260名が参加し、改正法の理解を深め今後の施策などを考える場となった(拓水713号)。

瀬戸内法改正記念シンポジウム
▲瀬戸内法改正記念シンポジウム

JF兵庫漁連と(一財)兵庫県水産振興基金は、2015(平成27)年9月に瀬戸内海環境保全特別措置法の一部改正法案が可決成立したことを受け、「真に「美しく豊かな海」と実感できる日まで、ともに熱意を持ち続けよう」という誓いを込めて、ディープブルーリボンと名付けたシンボルバッジを作成した。

2016(平成28)年4月、県漁連会長が県知事室を訪れ、知事にシンボルバッジを手渡した。このバッジは3色で構成され、緑色は海1に栄養をもたらす「森」、青色は「海」、緑色と青色の間の白色は「川」と「砂浜」をイメージした。バッジは県内JF役職員や行政担当者をはじめ、他県にも配布された(拓水715号)。

シンボルバッジ:ディープブルーリボン
▲シンボルバッジ:ディープブルーリボン

2016(平成28)5月、播磨灘等環境保全協議会が姫路市内で開催された。この協議会は2015年(平成27)年10月に改正・施行された瀬戸内海環境保全特別措置法(改正瀬戸法)に、「湾灘協議会の設置」が推奨されたことを受け、播磨灘に関する協議会として設置された。改正瀬戸法に基づく「瀬戸内海の環境の保全に関する兵庫県計画」を推進するため、広く関係者の意見を聞き、下水処理場の栄養塩管理運転や藻場・干潟造成等の豊かな海づくりがさらに推進されることが期待された(拓水716号)。

2016(平成28)年12月、瀬戸内海関係漁連・漁協連絡会議平成28年度第1回会長会議・ワーキングチーム会議合同会議が神戸市内で開催された。2015(平成27)年10月の瀬戸法改正以降初めての会議となった。最初に、法改正後の各府県の取組や今後の展望等について、報告や意見交換が行われた。法改正で豊かな海を目指すという精神はできたが、実現のための具体的施策の実施に向け、今後も豊かな海づくりの推進が必要であることが確認された(拓水724号)。

2018(平成30)年1月、参議院議員会館で「瀬戸内海再生議員連盟」の総会が開催された。2015(平成27)年10月に改正瀬戸法が施行されてから2年が経過し、豊かな海に向けた関係者の取組状況について確認が行われた。水産庁長官は「水産基本計画に「赤潮・貧酸素水塊対策に加え、栄養塩の管理に関する検討、漁場の生産力の回復維持に必要な調査を推進する」と盛り込んだ」と述べた。兵庫県知事は「海の窒素・リンの下限値の設定ができないか、沿岸で石積み護岸等の環境配慮型護岸の整備推進を進められないか、県環境審議会に諮問している」と述べた(拓水736号)。

2018(平成30)年7月発行の拓水741号に、ひょうご豊かな海発信プロジェクト協議会が、神戸市立須磨海浜水族園と共催して、特別展「海からみた兵庫県~二つの海にはさまれて~」を同水族園で開催することが発表された。この特別展は、来園者に「豊かな海ってなんだろう?」と興味を持ってもらうことを目的とした。さらに、同年9月発行の拓水743号には、ひょうご豊かな海発信プロジェクト協議会主催による「ひょうご豊かな海フェスティバル」の開催案内が掲載された。このフェスティバルは、多様な生命を育む「豊かで美しい海」の必要性を多くの県民に考えてもらう契機とするため、須磨海浜公園で開催する予定であったが、台風の接近で中止となった。

2018(平成30)年11月、明石市内で水産海洋地域研究集会第1回東部瀬戸内海研究集会「東部瀬戸内海のイカナゴ資源と環境を考える」が、研究者、漁業関係者、行政担当者等約300名が参加して開催された。イカナゴ資源を持続的に活用するため、当海域では従来から資源管理が行われてきたが、その漁獲量は変動を繰り返しながら減少し大きな問題となっていた。そのため研究集会は、当海域のイカナゴ資源と環境に関する最新情報を集め、情報を共有することを目的とした(拓水746号)。

2018(平成30)年12月発行の拓水746号に、ひょうご豊かな海発信プロジェクト協議会が取り組むイベントにパートナー参加した各地のイベントが紹介された。

2019(平成31)年3月、参議院議員会館において瀬戸内海再生議員連盟の総会が開催された。2015(平成27)年10月に改正瀬戸法が施行されてから3年が経過し、豊かな海に向けた関係者の取り組み状況等についての報告が行われた。瀬戸内海関係漁連・漁協連絡会議から議連会長に要望書が手交され、同連絡会議幹事の兵庫県漁連会長から次のとおり要望事項が発表された。①藻場や砂浜を計画的に造成する、②改正瀬戸法に栄養塩の重要性を明記し、湾灘ごとに必要な処置を実施する、③赤潮・貝毒につながるプランクトンについて、メカニズムの解明と対策を実施する、④CODに関する検討を実施する、の4項目を要望した。兵庫県知事から「兵庫県の政策目標として窒素・リン濃度の下限値を2020年(令和2年)夏頃に設定予定である。また播磨灘流域別下水道整備総合計画を変更し、可能な限り窒素濃度を高めた放流に努める配慮規定を定めた。さらに産業系の栄養塩管理ガイドラインの作成と排水基準見直しに向けて検討している」との発言があった(拓水750号)。

2019(令和1)年5月発行の拓水751号に、JF兵庫漁連とひょうご豊かな海発信プロジェクト協議会が、同年5月に明石市望海海浜公園において共催で実施した海浜清掃の模様が紹介された。この取組は、漁業者と消費者が手を携えて、豊かな海を支える森を育む「虹の仲間で森づくり」の海バージョンである。コープこうべの組合員や行政、漁業関係者ら約110名が参加した。

瀬戸内海を豊かな海に コミック版で紹介
▲瀬戸内海を豊かな海に コミック版で紹介

2019(令和1)年11月、JF兵庫県漁連は洲本市において、経済再生担当大臣及び農林水産大臣との意見交換会を開催した。瀬戸内海の栄養塩環境の悪化が、水産資源の減少に大きな影響を与えていることをテーマに意見交換会が行われた。県漁連会長から、海が貧栄養になりすぎ、植物プランクトンや海藻の成長に必要な窒素・リンなどの栄養塩が減少して、プランクトンを餌とする様々な水産資源が激減したことや、関係省庁に協力関係を構築するよう求めたいとの要望が、両大臣に伝えられた。農林水産大臣からは、このことを受けて、水産庁・国土交通省・環境省を交えて協議するとの発言があった。意見交換会の翌日には、両大臣に国土交通大臣、環境大臣を交えた協議が行われ、「瀬戸内海を豊かで美しい里海に再生する」ための取組が進展することが期待された(拓水757号)。

2019(令和1年)11月、兵庫県とひょうご豊かな海発信プロジェクト協議会が共催で、「瀬戸内海環境保全セミナー~海に必要な栄養とは~」を神戸市内で開催した。参加者は県会議員をはじめ、瀬戸内海沿岸の漁業者や自治体関係者など約200名であった。豊かで美しい瀬戸内海の再生について、県の取組状況等について説明が行われた(拓水758号)。

2020年(令和2年)1月発行の拓水759号に、2019(令和1)年12月に神戸市内で開催された、兵庫県水産振興議員連盟とJF組合長懇談会の模様が報告された。参加者は兵庫県知事・副知事をはじめ県議会議員とJF組合長、系統団体役職員ら約110名であった。懇談会のテーマは「豊かな海の実現に向けた県条例の一部改正について」で、豊かな海の実現に向けた県条例の改正趣旨がどの程度一般県民に理解されているか、などについて意見交換が行われた。

2021(令和3)年2月発行の拓水772号に、東播磨県民局とJF明石浦が連携して制作した、「海底耕耘プロジェクト」の動画とチラシが紹介された。これらは、海の栄養を回復するための取組を、広く知ってもらうためのものであった。

2021(令和3)年3月、今国会で瀬戸内海環境保全特別措置法の一部改正を目指す環境大臣が、ノリの色落ちやイカナゴの漁獲量減少など、栄養塩が低下した海の現状を把握するため、兵庫県水技センター、兵庫県水産会館を訪れ、関係者から話を聞いた。大臣は「海の中をモニタリングしながら、きれいな海と豊かな海の両立を持続可能にしていく。これは世界の先駆けだと思う。一律な水質規制ではなく、海域ごとに地域の理解を得ながら丁寧に水質管理を行う。これを成功に導くには、漁業者の皆さんの理解が必要だ」と述べた(拓水774号)。

小泉環境大臣が県水技センターを訪問
▲小泉環境大臣が県水技センターを訪問

2021年(令和3)年4月発行の拓水774号に、瀬戸内海環境保全特別措置法の一部を改正する法律案の概要が報告された。主な改正内容は次のとおりであった。①栄養塩類管理制度の創設(知事が策定する計画に基づき、特定の海域への栄養塩類供給を可能にする)、②自然海浜保全地区の指定対象の拡充(水際線付近に藻場等が創出された区域も指定可能にする)、③海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等の発生抑制に関する責務の規定、④気候変動による環境への影響に関する基本理念の改正、の4点である。

2021(令和3)年6月発行の拓水776号では、同年6月3日の通常国会で可決された「瀬戸内海環境保全特別措置法」の2度目の法改正に関する特集が組まれた。今回の改正で、「栄養塩類の供給等、監理ルールの整備」「藻場・干潟の再生・創出の取組の推進」「漂流ごみ等の発生抑制対策の推進」が明文化され、今後の豊かな海の再生に向けた、実効性のある取組の進展が期待された。

2021年(令和3)年7月発行の拓水777号には、「特集-豊かな海の実現に向けて-第1部栄養塩類管理制度創設前の軌跡①宝の海「瀬戸内海の異変(貧栄養化)」」が掲載されている。栄養塩類の管理の実際の取組内容は、今後県が策定する栄養塩類管理計画によるが、豊かな海の再生に向けたこれまでの経緯と今後の取組などについて、「拓水」に連載していく方針が示された。

2021年(令和3)年8月発行の拓水778号には、前号の特集を受けて「特集-豊かな海の実現に向けて-第1部栄養塩類管理制度創設前の軌跡②豊かな海を取り戻すために⑴」が掲載された。漁業者が取り組んでいる、漁業者の森づくりや、海底耕耘、かいぼり、下水処理施設の管理運転について記している。

2021年(令和3)年9月発行の拓水779号には、「特集-豊かな海の実現に向けて-第1部栄養塩類管理制度創設前の軌跡③豊かな海を取り戻すために⑵」が掲載された。栄養塩濃度の下限値の設定などが紹介された。

2021年(令和3)年10月発行の拓水780号掲載の「特集-豊かな海の実現に向けて-第1部栄養塩類管理制度創設前の軌跡④豊かな海ってなんだろう?」では、全国豊かな海づくり大会兵庫大会の概要や、ひょうご豊かな海発信プロジェクト協議会のこれまでの取組を紹介している。

2021年(令和3)年12月発行の拓水782号には、「特集-豊かな海の実現に向けて-第1部栄養塩類管理制度創設前の軌跡⑤海の栄養塩類とイカナゴ漁獲量の関係」が掲載された。イカナゴのシンコの漁獲量が、窒素濃度の低下とともに減少していることが明らかにされている。

2021(令和3)年12月発行の拓水782号に、東播磨県民局とJF明石浦が連携して制作した、「海底耕耘プロジェクト」(拓水772号に掲載)に引き続く、第2弾「かいぼりプロジェクト」の動画とチラシが紹介された。前回同様、海の栄養を回復するための取組を、広く知ってもらうためのものである。

2022(令和4)年2月、県東播磨県民局とJF明石浦が連携して制作した前掲の「「豊かな海へ」海底耕耘プロジェクト」の動画が、農林水産省・消費者庁・環境省の連携プロジェクトで、食と農林水産業に関する持続的な取組を分かりやすく紹介した動画を表彰する「サステナアワード2021伝えたい日本の「サステナブル」」で、農林水産大臣賞を受賞した(拓水785号)。

2022(令和4)年3月、ひょうご豊かな海発信プロジェクト協議会は、兵庫県が主催する「美しいひょうごの海をめざして-活動報告会-」を共催した。この報告会は、豊かな海づくりに対して、県民の理解と参加を促すことを目的にしている(拓水786号)。

2022(令和4)年4月発行の拓水786号から、元水産大学校理事長による「海からのマナザシ」が連載されることになった。初回には「瀬戸法改正とその後の課題」が寄稿された。

2022(令和4)年5月発行の拓水787号に、兵庫県が改正瀬戸内海環境保全特別措置法に基づき策定した、栄養塩類管理計画案が掲載された。同年5月12日まで、この計画案に対するパブリックコメントを募った。

2022(令和4)年5月発行の拓水787号から、県水技センター技術参与による「豊かな海を求めて~これまで、これから~」が連載されることになった。初回のテーマは「豊かな海ときれいな海は両立できるのか」であった。

2022(令和4)年7月発行の拓水789号に、県水技センター技術参与による「豊かな海を求めて~これまで、これから~:貧栄養化とは?~その実態~」が寄稿された。これによると、海の生態系は陸の生態系に比べ貧栄養化しやすい。すなわち、森では地上に落ちた葉が、その場で分解され栄養となって再び木に利用される。一方で、海では表層で育った植物プランクトンは、徐々に海底に沈み、死んだプランクトンが分解されて生じた栄養は下層にたまり、水深が深い外洋では栄養が表層に戻るのは容易ではない。しかし外洋には、周期2000年とされる深層大循環と呼ばれる大きな流れがあり、これが底層の栄養を表層に戻す役割を果たしている。一方、瀬戸内海のような水深の浅い沿岸内湾域では、水温が下がる冬場に底層と表層の海水がかき混ぜられ、下層の栄養が表層に戻る。沿岸内湾域の生産性が高いのは、陸からの栄養供給があることと、水深が浅く底層の栄養が表層に戻りやすいためであるという。

次に瀬戸内海の貧栄養化の実態について述べている。窒素・リンの環境基準が1993(平成5)年に制定され、瀬戸内海の大半の海域は全窒素濃度が0.3㎎/ℓ以下の「Ⅱ類型」に指定された。しかし、2014(平成26)年~2017(平成29)年の瀬戸内海では、全窒素濃度の平均値が0.2㎎/ℓ以下の海域(Ⅰ類型レベル)が大きく広がっている。瀬戸内海の漁船漁業やノリ養殖、貝類養殖のほとんどが、本来Ⅱ類型海域で営まれているにもかかわらず、その海域の全窒素濃度が0.2㎎/ℓ以下(Ⅰ類型レベル)に低下していることを指摘した。

貧栄養化の漁業への影響について、2018年版の水産用水基準の全窒素と生産量の関係を示す図を見ると、両者には密接な関係がある。すなわち、全窒素濃度が0.2㎎/ℓ付近に低下すると、一次生産量が非常に低くなる。これらの知見から、2018年版の水産用水基準には「陸域からの栄養塩類供給に依存する閉鎖性内湾であって全窒素0.2㎎/ℓ以下、全燐0.02㎎/ℓ以下の海域は、生物生産性が低い海域であり一般的に漁船漁業に適さない」と記載されている。養殖ノリの色落ち現象をみると、瀬戸内海のノリの色落ちの域値はDIN(溶存態無機窒素)濃度で3μMとされている。全窒素0.2㎎/ℓのDINは2.9~3.6μMと推定されることから、全窒素が0.2㎎/ℓであっても、ノリ養殖にとっては厳しい栄養塩環境であると言える。

同技術参与は最後に、兵庫県は2019年(令和1)年に条例に基づき、海域の全窒素濃度の下限値を0.2㎎/ℓと定めたが、この値は十分とはいえないまでも、まずは達成されるべき重要な値であると結んでいる。

2022(令和4)年8月、全国豊かな海づくり大会100日前イベントに参加した兵庫県知事が、県水産会館に県漁連会長を訪ね、大会終了後の「豊かな海再生のための活動」について、意見交換した。JF兵庫漁連からは、①県民総参加の豊かな海への活動の推進、②豊かな海の実現による持続可能で安定した水産食糧供給の実現と地産地消の促進、③サーキュラーエコノミーの考え方による県産有機肥料を利用した豊かな海づくりと廃棄物ゼロの社会実現、④豊かな海づくりによるCO₂吸収促進、の4点が提案された。県知事は、「海づくり大会後のレガシーをどうしていくかが大事である。兵庫の水産物が「地球にやさしい」とブランド化できれば、高い値段で売れる。それが現実的なSDGsだ」と述べた(拓水791号)。

2022(令和4)年9月発行の拓水791号に、連載「豊かな海を求めて~これまで、これから~:兵庫県瀬戸内海漁業が一番良かったのはいつ頃だったのでしょうか?」が寄稿された。それによると、漁船漁業全体の漁獲量は、1960年代中頃から1990年代前半までは概ね6~8万t/年レベルで推移したが、1990年代後半から急減し、2017年以後は3万t/年レベルに低下した。1995年が漁獲量の明瞭な転換点であった。ノリ養殖漁業の生産枚数は、1990年代までは順調に増加したが、2000年代に入る頃から色落ちが頻発するようになった。ノリの色落ちは1996年頃から見られるようになったので、ノリ養殖にとって良い時代は1990年代前半であった、と結論づけられる。

1973(昭和48)年から、大阪湾、播磨灘の環境に関わるようになった県水技センター技術参与は、当時の漁場環境について「海は汚れ、赤潮が頻発し、PCBや水銀汚染の問題も生じていた」という。しかし、「それから約20年が経過した1990年頃には、水質はだいぶ良くなったという印象をもった。また、見た目に水質が安定してきたという感覚があった」。実際に年間300件ほど発生していた赤潮は、1990年代には年間100件程度まで減少した。水質改善の年代変化に対する同技術参与の個人的感覚と、統計資料の生産量低下の推移との交点は、1990年代前半にありそうであると指摘している。小型底曳網と船曳網のように、漁獲対象が異なる漁法の漁獲量が同調的な変化をしている場合は、漁場環境など広範囲に影響する共通要因がかかわっていることが推察される、ともいう。

兵庫県は、2021(令和3年)6月に改正された瀬戸内海環境保全特別措置法に基づき、栄養塩類の供給を計画的に実施するため、「栄養塩類管理計画」を策定した。これまでの栄養塩類の「排出規制」一辺倒から「きめ細かな管理」へと、大きな転換が図られ、豊かで美しい瀬戸内海の再生に向けて、第一歩を踏み出すことになった。対象物質は全窒素と全リンで、水質の目標値に下限値を設けた。すなわち、全窒素の下限値は0.2㎎/ℓ、全リンの下限値は0.02㎎/ℓとした。栄養塩類増加措置実施者は、5工場と28下水処理場であった。局所的な施肥や海底耕耘、かいぼり、藻場・干潟の保全・再生活動については、海域への栄養塩類供給の定量的な評価が難しいため、栄養塩類増加措置に位置づけられなかった。今後は、兵庫県環境審議会及び湾灘協議会に、水質の状況等を定期的に報告するとともに、必要に応じて栄養塩管理計画を見直す、としている(拓水793号)。

2022(令和4)年11月発行の拓水793号に、連載「豊かな海を求めて~これまで、これから~:貧栄養化と漁獲量の間にはどのような関係があるのでしょうか?」が寄稿された。これによると、2015(平成27)年に瀬戸法の一部が改正されたが、その背景には漁獲量の減少があり、この時点において窒素濃度の低下が一因ではないか、との考え方がすでにあった、としている。このため、漁業関係者は栄養塩類濃度増加につながる法改正を期待したが、実現しなかった。これは栄養塩類と漁獲量の関係を示す情報が不十分であったため、と推察している。その後、様々な情報が蓄積され、考え方の整理も進み、2021年に栄養塩類管理制度の創設を柱とする瀬戸法の改正に至ったのである。

続いて、寄稿者の県水技センター技術参与自身が直接関わった、栄養塩類濃度と漁獲量の関係についての分析結果が報告された。兵庫県の漁船漁業の漁獲量は、1990年代前半から2010(平成22)年頃にかけて急激に減少した。そこで、減少前の1991~1995年と減少後の2009~2013年について、漁獲量と環境データの年代間比較を実施した。その結果、水温・塩分・溶存酸素飽和度(底層)には年代間で統計的に有意な差はなかったが、栄養塩濃度には有意差が認められた。

解析の精度を高めるために、播磨灘と大阪湾に分けた小型底曳網の漁獲量と各海域のDIN濃度との関係を調べた。その結果、播磨灘ではDIN濃度と2年後の漁獲量、大阪湾ではDIN濃度と1年後の漁獲量が、同調的に変化したことが明らかとなった。仔稚魚期の生残率が栄養塩類濃度の影響を受けるとすれば、生まれてから1~2年後に漁獲量に変化が現れる可能性がある。このような有意な関係は両者の関連性を示すが、因果関係まで明らかにするものではない、と指摘している。

最後に、同技術参与は栄養塩類と漁獲量の関係性をより明確にするために、栄養塩類環境から生物生産プロセスに踏み込んだ分析が必要であると考え、そのようなプロセスの解明に挑戦したイカナゴの事例を紹介している。それによると、イカナゴシンコの漁獲量とDIN濃度には、明確な同調性が認められ統計的にも有意であった。水温は低いほど漁獲量が多い傾向がみられたものの、統計的に有意ではなかった。さらに、県水技センターに保存されている過去30年以上にわたるシンコ標本から、摂餌量が減ってきたことが明らかとなった。これは「赤腹のイカナゴが減った」という漁業者の声を裏付けた。この結果から、シンコの餌の動物プランクトンの減少が推測された。同じ期間について、シンコがやせてきていることも明らかとなった。イカナゴがやせると産卵数が減ることはすでに明らかとなっており、餌不足がシンコの肥満度を低下させ、産卵数の減少が長期的なイカナゴ資源の低下につながっていると推察された。また、DIN濃度の低下が、植物プランクトン量(クロロフィル量)の減少や、シンコが食べている餌の量の減少と関連することも、データの分析から推測された。さらに、「大阪湾・播磨灘イカナゴ生活史モデル」を開発し、栄養塩類からイカナゴまでの生物生産のプロセスを再現した。すなわち、海域の窒素濃度の変化がイカナゴの漁獲量にどのように影響するか調べたところ、窒素濃度の増加が漁獲量の増加につながる結果が得られた。イカナゴに関して完全とは言えないが、窒素濃度と漁獲量の関係を示すことができ、窒素濃度の低下が漁獲量低下の重要な原因であると考えられることが明らかにされ、その結果はパンフレットとして公表された。

豊かな瀬戸内海再生調査事業のパンフレット
▲豊かな瀬戸内海再生調査事業のパンフレット

2023(令和5)年1月発行の拓水795号に、県水技センター技術参与による「豊かな海を求めて~これまで、これから~:なぜ貧栄養化がすすんできたのでしょうか?」が寄稿された。これによると、瀬戸内海への窒素の供給源は大気、外海、海底、陸の4つで、制御の可能性があるのは陸からの供給であるという。乾燥状態の大気の容量の78%が窒素ガスであるが、これは安定していて水に溶けず、生物は利用できない。外海からの供給については、瀬戸内海の栄養塩類のうち外海起源の割合を調べた報告から、平均的には50~60%と推定されている。外海水が瀬戸内海に入るルートは、紀伊水道と豊後水道で、紀伊水道沖の場合、表層には高水温・低栄養の黒潮が流れ、その下の水深100~200mより深いところには低水温で栄養に富む海水(深層水)がある。黒潮が紀伊水道沖で離岸したときに、内海の表層水が沖合に引かれ、それを補うように深層水が大阪湾に入る。

海底からの供給とは、海底に蓄積した泥から徐々に栄養塩類が溶出することを指し、溶出に関する情報は少ないが、量的には多いという報告がある。底泥については、局所的対応の可能性はあるが、海域全体の栄養塩濃度の制御は困難である。

陸からの負荷量と海域の窒素濃度との間には、明瞭な関係が認められている。瀬戸内海では1990年代後半から窒素負荷量が低下し、それに合わせるように海の窒素濃度が低下している。これは、1993年に窒素排出濃度規制が始まるとともに、窒素・リンの環境基準が設定されたことによる。1996年からは窒素削減指導が開始され、2001年には窒素・リンの総量規制が始まるなど、重要な環境施策が相次いで実施されたことが、窒素負荷量の低下につながったと推測される。姫路の年間降水量と12月の播磨灘表層の窒素濃度(溶存無機態窒素:DIN)との関係をみると、雨が多い年は12月のDINの濃度が高くなる傾向があった。ところが、2000年代に入ると、降雨のわりにDIN濃度が上がらなくなってしまった。陸域の発生負荷量の低下が影響している可能性が示唆された。

以上のことから、貧栄養対策として最も重要なのは陸域からの窒素の供給であると、同技術参与は指摘している。最後に、兵庫県が貧栄養対策として栄養塩類管理計画を策定し、負荷量管理をその主軸においていることは、大変合理的であるともいう。今後は綿密なモニタリング調査を実施し、施策の影響と効果を評価して、柔軟な対策を講じることで、豊かな海の実現を目指すことが大切であると結んでいる。

2023(令和5)年3月発行の拓水797号に、県水技センター技術参与による「豊かな海を求めて~これまで、これから~:栄養塩類の改善に向けて」が、本シリーズ最終回として掲載された。これまで、貧栄養対策として最も重要なのは、陸からの負荷の制御を中心とする制度的取組であると考えられてきたが、近年、その考え方が大きく変わってきたと、同技術参与は指摘している。施策の大きな方向転換は2015(平成27)年の瀬戸内法の改正で、法の理念が新設され瀬戸内海を豊かな海にすることが目標とされた。続く2021(令和3)年の改正では、栄養塩類管理制度が新設され、府県知事の判断で栄養塩類管理計画の策定が可能となった。これらの改正によって、瀬戸内海の水質管理の新たな考え方と方向性が示された。兵庫県はこのような環境省の動きを踏まえて、2019(令和1)年に条例を改正し、全国で初めて、海域の窒素・リンの下限値を設定した。さらに2022(令和4)年10月には瀬戸内海の他府県に先駆けて、栄養塩類管理計画を策定した。

一方、下水処理の運用に関して国土交通省は、2015(平成27)年に「流域別下水道整備総合計画調査指針と解説」を改訂し、下水処理場の季節別管理運転の実施を可能とした。これを受けて兵庫県は、2018(平成30)年に「播磨灘流域別下水道整備総合計画」を改訂し、全国初の季節別処理水質を設定するとともに、季節別管理運転の本格運用を開始した。

同技術参与は、こうして瀬戸内海の水質管理に関わる新たな制度的取組の枠組みが整ったとした上で、今後の貧栄養対策として最も重要な栄養塩類管理計画について、2つの重要な視点から次のように述べている。

【視点1-水質の目標値】この計画の対象海域の大部分を占めるⅡ類型海域の全窒素(TN)の濃度の目標値は、0.2~0.3㎎/ℓである。0.2㎎/ℓは2019(令和1)年度の県条例の下限値で、0.3㎎/ℓは国の環境基準である。ここで技術参与は、下限値の0.2㎎/ℓの意味を理解することが重要であると述べている。すなわち、「全窒素0.2㎎/ℓ以下の海域は水産用水基準(2018年度版)において一般的には漁船漁業に適さない」と記されており、ノリ養殖においては全窒素0.2㎎/ℓは、何とか色落ちを回避できるレベルであり、重要な数値と言えるとしている。

【視点2-目標値の達成可能性】この計画の予測シミュレーション結果には、詳細な算定条件が示されていないため評価が困難である。一方、同技術参与らが1995(平成7)年~2014(平成26)年の播磨灘の全窒素濃度と負荷量の関係を用いて検討した結果では、同海域の下水処理場からの全窒素負荷量を50%程度増やすことができれば、海域の平均的な全窒素濃度は0.2㎎/ℓに近づくと推定されたと述べている。ただし、予測値は設定する条件によって変化するため、現時点で目標達成の可能性に言及することは難しいとしている。そこで重要なポイントとして、モニタリングの実施と軌道修正が可能な体制の確保をあげている。さらに、実施事業者の拡大や下水処理場の排水濃度を計画処理水質の上限に近づける等、栄養塩類増加措置の高度化の必要性を指摘している。

次に同技術参与は、漁業者が実施しているかいぼりや海底耕耘などの海の栄養を増やす取組について触れている。漁業者のこうした取組による栄養塩類供給効果は、制度的取組に比べて決して大きくはないが、それ以外に大切な意義があると指摘している。すなわちかいぼりは、池の保全管理を通して地域防災への貢献や、自然環境や生物の保護・保全などへの貢献、また、海底耕耘には、海底ごみの回収や海底環境の改善などが期待される。さらに、漁業者のこうした取組は、新聞等で報道されることも多く、海の現状を伝える良い機会となっており、このようなアナウンス効果が、制度的取組を下から支える力になっていると述べた。

同技術参与は本シリーズの締めくくりとして、栄養塩類の循環について、その重要性を指摘している。まず、海と陸の窒素の循環について、1960年代までは窒素負荷量に対して漁獲による窒素回収率が高かったと述べている。この頃は沿岸部の開発が行われる前で、海域に流入した栄養塩類が漁業生産に有効につながっていた可能性を示唆している。次に海の中の循環について、海に流入した窒素はまず植物プランクトンに利用(新生産)され、その後食物連鎖を通じてあらゆる生物に配分される。それらの生物の排泄物や死亡個体は、分解されて無機の窒素となり、再び植物プランクトンに利用(再生生産)される。再生生産の窒素を増やすには、多様な生物が生息できる場の確保や環境整備が必要と述べている。

兵庫県は新生産の窒素を増やす取組を中心に、豊かな海づくりを進めているが、貧栄養化が進む状況の中では、最も重要な取組の方向であるとし、並行して生物の生息場所の確保や再生の取組を継続する必要があるとしている。

2023(令和5)年4月発行の拓水798号で、漁業関係者による肥料を用いた栄養塩類供給の取組状況が紹介された。

2023(令和5)年5月発行の拓水799号に、同年4月に県環境部水大気課に新設された里海再生班が紹介された。里海再生班の主たる業務としては、①兵庫県栄養塩類管理計画に関して、窒素及びりんの海域濃度の達成をめざすため、新たな栄養塩類の供給方法の調査・検討を行うこと、②第41回全国豊かな海づくり大会兵庫大会のレガシーを継承するため、活動を支える組織として「ひょうご豊かな海づくり県民会議」を設立し、「豊かで美しいひょうごの海」の実現をめざすこと、とされた。

2023(令和5)年6月発行の拓水800号に、2022(令和4)年度における、ひょうご豊かな海発信プロジェクト協議会の活動状況が紹介された。

明石市議会において、明石市豊かな海づくり条例が議決され、2023(令和5)年4月から施行された。この条例は、第41回全国豊かな海づくり大会兵庫大会を一過性に終わらせないために、豊かな海づくりを具体化するための条例化に取り組んだものである。基本理念を、①環境保全と資源利用を行いながら、安全で良質な水産物の安定的な供給をめざす、②水産業を活性化し、活力ある産業として発展させる、③市民、水産業者、市が一体となって実施する、としている(拓水800号)。

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